B型肝炎は母子感染の可能性も高いです。

しかし、B型肝炎に感染している方が妊娠できなかったり子どもを産めなかったりするものではありません。

予防策を講じれば母子感染のリスクは低くなりますし、対策を知っておけば問題なく生活できます。

本記事では、B型肝炎による妊娠や子育てに不安や疑問を解消するために、B型肝炎の母子感染の可能性や、予防策・対策について解説します。

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この記事を監修した医師
福地 裕三(にじいろクリニック新橋)
にじいろクリニック新橋の院長の福地です。性感染症を中心にED、AGA、ピルなどの処方も行う自由診療のクリニックになります。患者様1人1人、必要な検査は異なりますしエビデンスのある治療を行う必要があります。正しい情報を提供するとともに解決策を見つけ出してご提案いたします。

B型肝炎で妊娠すると母子感染する?

B型肝炎ウイルスに感染している状況で妊娠すると、生まれてくる赤ちゃんに母子感染する可能性があります。

しかし、必ずしも感染するわけではなく、適切な予防策を講じれば感染リスクを大幅に軽減できます

  • B型肝炎は遺伝する?
  • 胎内感染の可能性はある?

子どもへの感染リスクは、妊娠中のB型肝炎感染者が抱える大きな不安のひとつでしょう。

以下では、B型肝炎が遺伝する可能性や、胎内感染の可能性について詳しく解説していきます。

B型肝炎は遺伝する?

B型肝炎は親から子どもへ遺伝しません

原因となるウイルスが特定できていなかった時代は、B型肝炎の遺伝が疑われていましたが、実際に遺伝で感染する事実はありません。

B型肝炎は、主に血液や体液を介した接触によって感染します。

母子感染とは、生まれるときに胎内や産道で母親の血液などに接触し感染することです。

また父子感染とは、免疫力が低い幼少期に、父親の血液・唾液・涙・汗などの体液から感染することを指します。

母親や父親がB型肝炎の場合、子どもがB型肝炎ウイルスに感染する可能性はありますが、あくまでも後天的なものであって先天的な遺伝とは異なります

胎内感染の可能性はある?

胎内感染の可能性は、母子感染の中で比較的低いとされていますが、ゼロではありません

B型肝炎ウイルスの母子感染は、通常出産の際におこる場合が多いとされています。

しかし、まれに胎内感染が成立し、出生時または出生後1ヵ月の時点で子どもがB型肝炎ウイルスの検査で陽性となるケースもあります。

その場合には予防措置が意味をなさなくなるため、感染防止対策ではなく直接保健指導がおこなわれるのが一般的です。

具体的には、定期的な健康診断や肝機能検査のほか、日常生活を送るうえでの心構えなどの指導が実施されます。

女性のB型肝炎感染の割合

2012年4月~7月の健診受診者などを対象とした調査によると、女性のB型肝炎感染の割合は以下のとおりです。

出生年HBs抗原陽性率
1913年~1930年0.56%
1931年~1940年0.65%
1941年~1950年0.76%
1951年~1960年1.03%
1961年~1970年0.82%
1971年~1980年1.32%
1981年~1994年0.40%
0.90%

【参考】厚生労働科学研究成果データベース|肝炎ウイルス感染状況の把握及び肝炎ウイルス排除への方策に資する疫学研究

HBs抗原検査はB型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べる検査で、妊婦検診の標準的な検査項目にも含まれています

HBs抗原の存在が確認されると陽性の結果となり、B型肝炎ウイルスに感染していると考えられ、別途ウイルスの増殖力などの検査が実施されるのが一般的です。

B型肝炎ウイルスは、日本全体でもおよそ100人に1人が感染していると推定されており、決して珍しい病気ではありません。

ウイルスに感染すると必ずB型肝炎になる?

ウイルスに感染したとしても、必ずB型肝炎になるとは限りません。

免疫機能が確立した成人後に感染した場合、症状があらわれないまま自然にウイルスが排除される場合が多いです。

症状があらわれない状態を不顕性感染といい、B型肝炎ウイルスの場合は80%~90%の人が不顕性感染の経過をとるとされています。

また一部の人は急性肝炎を発症しますが、基本的には一過性の感染を経て治癒するケースがほとんどです。

症状の有無にかかわらず、一度感染してウイルスが体内から排除されると、B型肝炎ウイルスに対する免疫がつきます。

妊娠中のB型肝炎検査が重要な理由

妊娠中のB型肝炎検査は、母子感染のリスクを軽減し、妊娠期間を通じて母体と胎児の健康を守るために重要です。

検査によって、妊娠中の女性がB型肝炎ウイルスに感染しているかどうかが明らかになり、もし感染している場合は医師による適切な処置をおこなえます。

  • B型肝炎に感染していると妊娠に影響する
  • B型肝炎ウイルスの検査方法

B型肝炎に感染していた場合の妊娠への影響や具体的な検査方法について、以下で確認していきましょう。

B型肝炎に感染していると妊娠に影響する

妊婦がB型肝炎に感染している場合は、妊娠中に母体や胎児への問題を引き起こさないよう、担当医師による健康管理が必要です。

また、妊娠中や出産時に母子感染するリスクを軽減させるため、適切な感染予防対策を講じる必要があります。

B型肝炎ウイルスは大人に感染しても、一過性感染として重篤な症状が出ないままウイルスが排除されるケースが多いです。

しかし、免疫機能が発達していない乳幼児に感染すると、ウイルスを異物と認識できないまま体内に保有し続ける持続感染となる可能性があります。

感染が確認された場合、しばらくは無症状でもいつ発症するかわからない状態となるため、できる限り感染前の検査と対策が重要です。

B型肝炎ウイルスの検査方法

B型肝炎ウイルスの検査は、HBs抗原と呼ばれる血液検査を通じておこなわれます。

検査結果の通知書には、HBs抗原のほか、HBsAgと記載されているケースもあります。

HBs抗原が陰性であれば、特殊な状況を除いてB型肝炎ウイルスには感染していません。

対してHBs抗原が陽性の場合は、B型肝炎ウイルスに感染していると判断されます。

HBs抗原によってB型肝炎ウイルスの感染が確認されると、以下のような検査を追加で実施し、感染状況を詳しく調べます。

  • HBe抗原
  • HBe抗体
  • HBV-DNA

HBe抗原とHBe抗体はB型肝炎ウイルスの増殖力を調べる検査で、HBV-DNAは血液中のウイルス量を調べる検査です。

妊娠時のB型肝炎感染防止策はいつから始める?

B型肝炎に感染しているとわかった場合の感染防止策の開始時期を、次の項目別で解説していきます。

  • 感染が起きるタイミングは陣痛時
  • 生後12時間以内の対策が望ましい

B型肝炎感染防止策をおこなう適切なタイミングについて、以下で詳しく確認していきましょう。

感染が起きるタイミングは陣痛時

B型肝炎の母子感染が起きるタイミングは、主に陣痛がはじまって母親の血液が胎児に移行したときや、産道内で母親の血液に接触したときと考えられています。

まれに出産後に母親の血液や唾液・母乳などを介して感染が生じるケースもありますが、母子感染のほとんどは出産時に起こります。

したがって、出産後はできるだけ早いタイミングで感染防止の対策をおこなわなければなりません。

生後12時間以内の対策が望ましい

生まれた赤ちゃんへのB型肝炎感染防止策は、生後12時間以内におこなうのが望ましいとされています。

適切に感染防止策をおこなえば、90%以上の確率でB型肝炎ウイルスの母子感染の防止が可能です。

【参考】肝炎情報センター|B型肝炎の母子感染について

妊娠中にB型肝炎ウイルスの感染が確認された場合は、一度専門医を受診し、母子感染防止策の内容やタイミングについて確認しておくとよいでしょう。

B型肝炎の母親から生まれた赤ちゃんに感染防止策が必要な理由

B型肝炎の母親から生まれた赤ちゃんに感染防止策が必要な理由として、主に次の2つが挙げられます。

  • ほとんどの場合でB型肝炎に感染する
  • 感染後は多くの赤ちゃんがウイルスキャリアになる

母親や生まれる赤ちゃんの健康を守るためには、妊娠中の健康管理だけでなく、生まれたあとの感染防止策も重要です。

それぞれの理由について、以下でひとつずつ解説していきます。

ほとんどの場合でB型肝炎に感染する

母親がHBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の場合、生まれた赤ちゃんに対して感染防止策をおこなわなければ、ほとんどの場合でB型肝炎に感染します。

感染した場合、症状が見られないケースも多いですが、B型急性肺炎を発症して黄疸や嗜眠・発育不良などの症状がみられる場合があります。

まれに感染症が重症化して死に至る可能性もあるため、赤ちゃんへの感染防止策は非常に重要です。

なお、母親がHBs抗原陽性であっても、HBe抗原陰性の場合は赤ちゃんに感染する確率はそれほど高くありません。

しかし、重症の肝炎を引き起こすリスクはあるため、母親がHBs抗原陽性の場合は出生後の感染防止策が必要です。

感染後は多くの赤ちゃんがウイルスキャリアになる

母親から赤ちゃんへの感染が発生した場合、感染した赤ちゃんの多くがB型肝炎ウイルスキャリアになるリスクがあります。

ウイルスキャリアとは、6ヵ月以上ウイルスが体内に残り、持続感染している状態の人です。

赤ちゃんがB型肝炎ウイルスキャリアになると、将来的に慢性肝炎や肝硬変、肝臓がんなどの肝疾患を発症するおそれがあります。

適切な感染防止策を講じればこれらのリスクを回避できる可能性が高いため、出生後の感染防止策が重要となるのです。

B型肝炎の母子感染予防策

B型肝炎ウイルスの母子感染を防ぐための具体的な予防策は、以下のとおりです。

  • 出生直後(12時間以内):HBIGとB型肝炎ワクチンを接種
  • 生後1ヵ月:B型肝炎ワクチンを接種
  • 生後6ヵ月:B型肝炎ワクチンを接種

HBIGを1回、B型肝炎ワクチンは期間をあけて3回接種することで、赤ちゃんへの感染を高確率で防げます。

接種後は、生後9ヵ月~12ヵ月の時点で血液検査を受けて、B型肝炎ウイルスへ感染していないと確認するのも重要です。

生後12時間以内にHBIGの注射・HBワクチンの接種

B型肝炎の母子感染予防策では、赤ちゃんが生まれてから12時間以内にHBIGの注射とB型肝炎ワクチンの初回接種をおこないます。

HBIGは抗HBs人免疫グロブリンの略称で、HBs抗体の濃度が高い免疫製剤です。

B型肝炎ウイルスに感染した母親から生まれた赤ちゃんにすぐ投与すると、赤ちゃんの血液中に入ってきたB型肝炎ウイルスを中和し、B型肝炎の発症を予防できます。

投与した免疫製剤は1ヵ月未満で体内から半減してしまうため、B型肝炎ワクチンとの併用によって長期にわたる感染防止効果を促します。

赤ちゃんの感染防止ができなかった場合の対策

もしB型肝炎の母子感染防止ができなかった場合、親としてとるべきいくつかの対策があります。

  • 傷に触れない
  • 顔やよだれを拭いたタオルを他の人が使わない
  • 授乳は問題ない?

B型肝炎に感染している母親から生まれ、感染防止ができていない赤ちゃんの血液には、基本的にウイルスが含まれていると考えられます。

その場合はどのように赤ちゃんとの接するべきか、以下で詳しく確認していきましょう。

傷に触れない

赤ちゃんがB型肝炎に感染している場合、その血液は感染源となりうるため、傷や傷から分泌される血液にはとくに注意が必要です。

赤ちゃんに出血するような傷や浸出液が多い湿疹ができた際は、ばんそうこうやガーゼなどで傷口を完全におおうようにしましょう。

また、傷のケアをするときは、赤ちゃんの傷口に直接触れないように、医療用の手袋を使うのが推奨されます。

顔やよだれを拭いたタオルをほかの人が使わない

赤ちゃんの顔やよだれを拭いたタオルは、ほかの人と共有するのは避けましょう。

B型肝炎ウイルスに感染している人の唾液や汗・涙にも、ウイルスが含まれている可能性があるためです。

赤ちゃんに使うタオルは専用のものを用意し、使用後は適切に洗濯して清潔に保つようにしてください。

授乳は問題ない?

B型肝炎に感染している母親からの授乳については、赤ちゃんに対して母子感染予防が適切におこなわれていれば制限する必要はないとされています。

ただし、乳首に傷や出血がある場合は、ウイルスが赤ちゃんに感染する可能性があるため母乳をあげるのは控えましょう。

不安なことがあれば都度専門医に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしてください。

B型ウイルスの母子感染は給付金を受け取れる

母子感染によってB型肝炎ウイルスに感染した場合、二次感染者としてB型肝炎給付金を受け取れる可能性があります。

ただし、給付金を請求するには母親が一次感染者としての要件を満たしている必要があります。

B型肝炎給付金の一次感染者・二次感染者の要件は、以下のとおりです。

 給付対象であると証明するための要件
一次感染者①B型肝炎ウイルスに持続感染していること
②満7歳になるまでに集団予防接種等※を受けていること
③集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと
④母子感染ではないこと
⑤そのほか集団予防接種等以外の感染原因がないこと
※予防接種およびツベルクリン反応検査
二次感染者①原告の母親が上記の一次感染者の要件をすべて満たすこと
②原告がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
③母子感染であること

【参考】厚生労働省|B型肝炎訴訟の手引き 第6版

専門知識のない人が要件を満たしているかを適切に判断するのは、難しいケースが多いです。

B型肝炎給付金の請求を検討している場合は、専門家である弁護士へ一度相談してみるのをおすすめします。

さいごに|B型肝炎の疑いがあれば専門家に相談しましょう

妊娠中にB型肝炎の疑いがある場合は、早い段階で専門家に相談し、検査を受けましょう

もしB型肝炎ウイルスの感染が確認されたとしても、出生後に適切な母子感染予防策をおこなえば、生まれた赤ちゃんに感染するリスクを大幅に軽減できます。

パートナーや自身がB型肝炎と診断されると、多くの疑問や不安が生じますが、医師や保健師などの適切なサポートとケアがあれば乗り越えられるケースがほとんどです。

母体と胎児の健康を守るためにも、一人で悩まずに専門家へ相談してみてください。

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