B型肝炎訴訟では、症状の重さや除斥期間が経過しているかどうかによって、得られる和解金額が大きく変わります。
法的に適正な金額の和解金を獲得するためには、弁護士に相談しながら、B型肝炎訴訟に向けて入念に準備を整えましょう。
本記事では、B型肝炎訴訟の和解金について、給付要件・症状別の金額・増額のポイントなどを解説します。
目次
B型肝炎の症状・除斥期間に応じた和解金額の一覧表
B型肝炎給付金の具体的な金額は、国の和解制度によって、以下の表のとおり定められています。
除斥期間未経過 | 除斥期間経過後 | |
死亡・肝がん・肝硬変(重度) | 3600万円 | 900万円 |
肝硬変(軽度) | 2500万円 | 600万円(現在も罹患している場合)300万円(それ以外の場合) |
慢性B型肝炎 | 1250万円 | 300万円(現在も罹患している場合)150万円(それ以外の場合) |
無症候性キャリア | 600万円 | 50万円 |
B型肝炎訴訟で和解金をもらえるまでのプロセス
集団予防接種などが原因でB型肝炎ウイルスに持続感染した方は、以下のステップを踏むことで、国から和解金(給付金)を受け取ることができます。
国家賠償請求訴訟を提起する
B型肝炎訴訟は、B型肝炎ウイルスの集団感染を引き起こした集団予防接種について、国の責任を追及するための手続きです。
B型肝炎被害については、被害者による集団訴訟が提起され、結果的に国と集団訴訟原告の間で基本合意書が締結されました。
その後、基本合意書の内容を基にして和解制度が創設され、現在まで運用が続いています。
B型肝炎被害に関する和解制度では、被害者による和解金(給付金)の請求は、国家賠償請求訴訟の手続きをつうじておこなうことが定められています。
そのため、被害者は裁判所に訴状を提出して、国会賠償請求訴訟を提起する必要があります。
訴訟で和解要件を立証し、国と裁判上の和解をする
国家賠償請求訴訟では、原告(被害者)は後述する受給資格に応じて、和解制度で定められる和解要件を立証する必要があります。
原告(被害者)が和解要件の立証に成功すると、国が和解に応じて「裁判上の和解」が成立します。
裁判上の和解の内容は、裁判所書記官が作成する「和解調書」に記載され、原告・被告の双方に対して拘束力を持ちます。
つまり、裁判上の和解が成立したことをもって、原告(被害者)が被告(国)に対して和解金を請求する権利が確定するのです。
社会保険診療報酬支払基金に和解金の支払いを請求する
被害者と国の間で裁判上の和解が成立すると、被害者は「社会保険診療報酬支払基金」に対して、和解調書記載の和解金の支払いを請求できるようになります。
参考:特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等支給関係業務|社会保険診療報酬支払基金
和解金の申請は弁護士に委任することができますので、申請方法の詳細は弁護士にご確認ください。
B型肝炎訴訟で和解金をもらうための要件は?
B型肝炎訴訟で国との和解を成立させるためには、和解制度で定められる受給資格に該当する必要があります。
具体的には、以下のいずれかの受給資格に該当することが必要です。
- 一次感染者
集団予防接種により、直接B型肝炎ウイルスに持続感染した人をいいます。 - 二次感染者
一次感染者からの母子感染または父子感染により、B型肝炎ウイルスに持続感染した人をいいます。 - 三次感染者
二次感染者からの母子感染または父子感染により、B型肝炎ウイルスに持続感染した人をいいます。 - ①~③の相続人
一次感染者・二次感染者・三次感染者のいずれかに該当する人を相続し、国に対する請求権を承継した人をいいます。
上記の各受給資格者に該当することを示すためには、それぞれ以下の事実を立証する必要があります。
- <一次感染者の場合>
B型肝炎ウイルスに持続感染していること
満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること
集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと
母親からの感染(母子感染)でないこと
その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと - <二次感染者の場合>
母親(父親)が一次感染者の要件を満たすこと
自身がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
B型肝炎ウイルスへの持続感染が、母子感染(父子感染)によって生じたこと - <三次感染者の場合>
母親(父親)が二次感染者の要件を満たすこと
自身がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
B型肝炎ウイルスへの持続感染が、母子感染(父子感染)によって生じたこと - <相続人の場合>
被相続人が一次感染者、二次感染者、三次感染者のいずれかの要件を満たすこと
自らが相続人であること
立証すべき和解要件や、必要となる証拠の詳細については、以下のページをご参照ください。
参考:B型肝炎訴訟とは|手続きの流れや受給資格・和解要件などを弁護士が解説|ベンナビ労働問題(旧:労働問題弁護士ナビ)
B型肝炎訴訟の和解金額はどのように決まる?
B型肝炎訴訟の和解金額は、「症状の内容」と「除斥期間の経過の有無」という2つの要素によって決定されます。
請求時点で発症している症状が重いほど高額になる
B型肝炎ウイルスに持続感染したとしても、実際に発症する症状は人によって異なります。
当然ながら、症状が重ければ重いほど、受給できるB型肝炎給付金も高額になります。
なお、具体的な症状が全く出ていない「無症候性キャリア」の方でも、B型肝炎給付金を受け取ることができます。
無症候性キャリアの方は、そもそもご自身がB型肝炎ウイルスに持続感染していることに気づいていないケースも多いです。
かなり幅広い方が、知らぬ間にB型肝炎ウイルスへの感染被害に遭っている可能性があるので、一度検査を受けてみるとよいでしょう。
除斥期間が経過していると、和解金が大きく減額される
「除斥期間」とは、2020年4月1日に改正される前の民法で定められていた、不法行為に基づく損害賠償請求権の期間制限のことです(現行民法では消滅時効。民法724条2号)。
本来であれば、除斥期間を経過すると、国のB型肝炎被害者に対する損害賠償請求権は消滅してしまいます。
しかし被害者救済の観点から、国の和解制度の中で、除斥期間を経過した被害者に対してもB型肝炎給付金を給付することが定められています。
とはいえ民法上の規定によれば、除斥期間未経過の被害者と経過済みの被害者では、国に対して有する請求権の性質が変化していると言わざるを得ません。
そのため除斥期間未経過の被害者に比べると、除斥期間経過済みの被害者が受け取れるB型肝炎給付金の金額は、かなり低額になってしまうのです。
なお、除斥期間は20年で、起算点は症状などに応じて以下のとおりとされています。
除斥期間の起算点 |
①無症候性キャリアの人:集団予防接種を受けた日(二次感染者については出生時) ②慢性肝炎などを発症した人:発症日 ③亡くなった人:死亡日 |
また、新たな症状が見つかった場合、その時点から新たに除斥期間が進行します(リセット)。
たとえば、無症候性キャリアとして除斥期間が経過した方でも、その後慢性B型肝炎の発症が確認された場合には、その時点で再び除斥期間未経過の被害者として取り扱われることになります。
上記のとおり、除斥期間が経過したかどうかは、B型肝炎給付金の金額に大きな影響を及ぼします。
そのため、できるだけ早くB型肝炎訴訟の準備を進めましょう。
和解金とは別に受け取ることができる給付の内容
上記の表に従ったB型肝炎給付金(和解金)の他に、和解制度に従い、被害者には以下の給付がおこなわれます。
①訴訟手当金
訴訟提起にかかる費用の補填として、以下の給付がおこなわれます。
- 弁護士費用として、和解金の4%に相当する額
- 特定B型肝炎ウイルス感染者であることを確認するための検査費用
特に、ある程度まとまった金額になりやすい弁護士費用の一部が補填される点は注目されます。
②特定無症候性持続感染者への給付
「特定無症候性持続感染者」とは、20年の除斥期間が経過した無症候性キャリアの方をいいます。
特定無症候性持続感染者には、さらに以下の給付がおこなわれます。
- 慢性肝炎等の発症を確認するための定期検査費
- 母子感染防止のための医療費
- 世帯内感染防止のための医療費
- 定期検査手当
B型肝炎訴訟の和解金を増額するためのポイントは?
B型肝炎の感染被害者の方が、ご自身の権利を最大限実現して和解金を得るためには、以下のポイントに注意して対応しましょう。
受給資格ごとに必要な証拠を確実に集める
B型肝炎訴訟では、受給資格ごとに定められた和解要件を立証できるかどうかが、適正な和解金を得られるかどうかの分かれ目となります。
そのため「B型肝炎訴訟の手引き」を参照し、さらに裁判所の指示にも従いつつ、必要な証拠を確実に収集・提出することが大切です。
証拠の収集についてわからないことがあれば、適宜弁護士に相談するとよいでしょう。
除斥期間が経過しないように早めに対応する
すでに解説したとおり、除斥期間が経過すると和解金額が大幅に減ってしまうので、早めに訴訟準備に着手することが大切です。
B型肝炎被害の可能性に思い至ったら、すぐに弁護士へ相談するなどの行動を起こしましょう。
改めて医師の診断を受け、最新の症状に基づいて訴訟を提起する
B型肝炎訴訟の和解金は、発症している病態の重さによって大きく変わります。
本人が気づかないうちに病状が進行しているケースも考えられるので、必ず最新の症状に基づいてB型肝炎訴訟を提起しましょう。
過去に肝疾患に関する医師の診断を受けている場合でも、最新の病態を把握するため、訴訟提起直前に改めて医師の診断を受けるようにしてください。
訴訟提起後に新たな症状が見つかった場合には、請求の拡張や追加給付金請求が可能
B型肝炎訴訟を提起した後で新たな症状が発見された場合、国に対して請求する金額を増額することができます。
現在B型肝炎訴訟が係属中の場合には、訴訟手続きの中で「請求の拡張」をおこない、請求額を増額します。
請求の拡張をした場合、新たな症状についてB型肝炎給付金の支給可否が判断されるので、手続きが一回で済むメリットがあります。
一方、すでにB型肝炎訴訟において和解が成立済みの場合、社会保険診療報酬支払基金に対して「追加給付金」を請求できます。
追加給付金として支給される金額は、和解金額と新たな症状に基づく給付金額の差額です。
(例)
無症候性キャリア(除斥期間未経過)として600万円で国と和解した後、慢性B型肝炎(除斥期間未経過)の発症が確認された場合
→1250万円と600万円の差額に当たる650万円を、追加給付金として受給可能
追加給付金を請求する際には、改めて国家賠償請求訴訟を提起する必要はなく、社会保険診療報酬支払基金に必要書類を提出すれば足ります。
具体的な必要書類については、以下のホームページで確認できますが、わからなければ弁護士にご確認ください。
B型肝炎訴訟で和解金を得るには弁護士への相談をおすすめする4つの理由
B型肝炎訴訟は、被害者自身でも提起することができます。
しかし、手続きを進めるうえでの安心感などを考慮すると、やはり弁護士への相談・依頼をお勧めいたします。
弁護士にB型肝炎訴訟への対応を依頼する主なメリットは、以下のとおりです。
訴訟準備の労力が省け、抜け漏れも防げる
B型肝炎訴訟では、立証すべき事実や必要な証拠がパターン化されているとはいえ、依然として準備にたいへんな労力がかかります。
準備すべき資料もかなり多いため、被害者だけで対応すると抜け漏れが生じてしまうことも大きな懸念材料です。
弁護士にB型肝炎訴訟への対応を依頼すれば、訴訟準備を全面的に代行してもらえます。
そのため、被害者自身の労力は大幅に削減され、同時に準備の抜け漏れも防げるメリットがあります。
弁護士費用は国から一部援助される
B型肝炎訴訟では、被害者救済を幅広く実現する観点から、「訴訟手当金」として弁護士費用の一部が補助されることになっています。
具体的には給付金額の4%相当額が、弁護士費用の補填として、社会保険診療報酬支払基金から被害者に支払われます。
そのため通常の法律事件に比べると、B型肝炎訴訟を弁護士に依頼する際の経済的負担は、実質的にかなり軽減されているのです。
なお訴訟手当金は、依頼先の弁護士が誰であるかにかかわらず受給できます。
多くの弁護士が無料相談を実施
B型肝炎訴訟に関する法律相談は、無料で実施している弁護士が非常に多いです。
B型肝炎訴訟の制度や準備の仕方が全くわからないという方でも、一度弁護士の無料法律相談を利用すれば、手続きの全体像について一定の見通しを持つことができるでしょう。
無料法律相談を利用したからといって、必ず弁護士に依頼しなければならないわけではなく、複数の弁護士を比較して依頼先を選ぶことも可能です。
弁護士の無料法律相談は気軽に利用できますので、お近くの弁護士に一度連絡を取ってみることをお勧めいたします。
着手金が無料のケースも多い
弁護士への依頼時には、初期費用として「着手金」がかかるのが一般的です。
しかしB型肝炎訴訟の場合、実は着手金を無料にしている弁護士が数多く存在します。
着手金が無料の弁護士に依頼をすれば、事前に依頼費用を準備する必要がないうえ、「給付金額<弁護士費用」となる「費用倒れ」の心配もありません。
弁護士費用を準備できるかどうか不安な方は、着手金無料の弁護士への依頼を検討するとよいでしょう。
さいごに
B型肝炎訴訟の和解金額は、発症している病態の内容・重さと、除斥期間の経過の有無という2つの要素によって決定されます。
被害者が適正な和解金を得るためには、最新の症状に基づき、できるだけ早期にB型肝炎訴訟を提起することが大切です。
B型肝炎訴訟を提起する場合、弁護士に依頼すれば、漏れのない準備により適正な和解金を得られる可能性が高まります。
相談料・着手金を無料にしている弁護士も多いうえ、国から弁護士費用の補助を受けられるので、費用面での被害者の負担も軽減されています。
これからB型肝炎訴訟を提起しようと考えている方は、一度弁護士の無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。