B型肝炎訴訟は、立証すべき事項や必要な証拠などがパターン化されているため、被害者が自分で提起することも可能です。

ただし、弁護士に依頼する場合と比べると手間がかかるうえ、必要な資料などに抜け漏れが生じやすくなります。

被害者の方がB型肝炎訴訟を自分で提起することを検討している場合でも、一度弁護士の話を聞いてみて、本当に自分で訴訟提起するべきかどうかをよく検討してください。

本記事では、B型肝炎訴訟を自分で提起する場合のメリット・デメリット・注意点などについて解説します。

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この記事を監修した医師
阿部由羅
阿部由羅
阿部 由羅(ゆら総合法律事務所)
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て、ゆら総合法律事務所代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

B型肝炎訴訟は自分でも提起できる?

弁護士費用が掛かることなどを懸念して、B型肝炎訴訟を自分で提起しようとする被害者の方もいらっしゃいます。

現実的に考えて、B型肝炎訴訟を被害者自身で提起することは可能なのでしょうか。

訴訟提起は被害者自身でも可能

結論としては、B型肝炎訴訟を被害者自身で提起することは、一応可能と考えられます。

B型肝炎訴訟は、国に対してB型肝炎ウイルス感染の責任を追及し、賠償金(和解金)の支払いを求める「国家賠償請求訴訟」です。

国家賠償請求訴訟を含めて、裁判所に訴訟を提起する際には、弁護士を代理人とすることが必須ではありません。

したがって法的には、被害者が弁護士を代理人とせず、自分でB型肝炎訴訟を提起することも可能です。

「B型肝炎訴訟の手引き」を参照するとよい

実際上の問題として、労力や知識などの観点から、B型肝炎訴訟を被害者自身で提起するのは被害者の負担が大き過ぎないかという点が懸念されます。

このような懸念を完全に払しょくすることはできないものの、B型肝炎訴訟の場合は和解制度が整備されているという特徴があります。

つまり、過去の判例や集団訴訟原告との基本合意書に基づき、和解の要件と立証に必要な証拠がある程度類型化されているのです。

そのため通常の訴訟に比べると、B型肝炎訴訟は必要な作業の道筋が示されている分、被害者自身で対応することのハードルが低いといえるでしょう。

なお、B型肝炎訴訟の和解要件や立証に必要な証拠は、「B型肝炎訴訟の手引き」などの公表資料にまとめられています。

参考:B型肝炎訴訟の手引き 第5版|厚生労働省

さらに、被害者自身で提訴することを検討している方に向けて、以下の資料も公表されています。

参考:B型肝炎訴訟の手引き 第5版 ご自身での提訴を考えている方へ(説明編)|厚生労働省

もし被害者の方が自分でB型肝炎訴訟を提起したならば、上記の公表資料きなどを参照しながら準備を進めるとよいでしょう。

B型肝炎訴訟を自分で提起するメリット

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起するメリットは、「弁護士費用を節約できる」という点に尽きます。

法律事務所(弁護士事務所)が一般的に採用している「着手金・報酬金制」の場合、B型肝炎訴訟の弁護士費用の相場は、おおむね以下のとおりです。

着手金33万円~55万円程度(税込)※B型肝炎訴訟の場合、無料のケースもあります。
報酬金給付金額の8.8%~17.6%程度(税込)
(例)着手金:44万円報酬金:給付金額の13.2%給付金額:1250万円(慢性B型肝炎・除斥期間未経過)弁護士費用:44万円+1250万円×13.2%=209万円

上記のように、B型肝炎訴訟の弁護士費用は、ある程度まとまった金額になることが予想されます。

よって適切な給付金を得ることができれば、被害者自身でB型肝炎訴訟を提起する方が、被害者が受け取れる金銭的利益は大きくなります。

B型肝炎訴訟を自分で提起するデメリットとは

B型肝炎訴訟を自分で提起する場合、費用面でのメリットはあるものの、以下のようにさまざまなデメリットがあることも理解しておきましょう。

もし少しでも不安がある場合には、弁護士に相談だけでもしておくことをおすすめいたします。

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訴状・準備書面を自分で作成しなければならない

B型肝炎訴訟を提起する場合、まず裁判所に「訴状」を提出します。

訴状には、原告(被害者)が求める請求の内容と、それを基礎づける事実を法律の要件に沿って記載しなければなりません。

訴状の記載に不備がある場合、裁判所から修正や追加資料の提出を求められたり、裁判官に悪い心証を与えてしまったりするおそれがあるので注意が必要です。

また、訴状よりも詳細な事実関係や法的主張を記載した「準備書面」の作成も、B型肝炎訴訟における非常に大切な作業です。訴状・準備書面の作成は、法律や和解制度の内容を十分に踏まえておこなわなければならず、不慣れな方には難しい作業です。

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起する場合には、複雑な訴状・準備書面の作成を自分でおこなわなければならないデメリットがあります。

訴訟期日に必ず自分で出廷しなければならない

B型肝炎訴訟では「口頭弁論」と呼ばれる期日が開かれ、原告(=被害者)・被告(国)の両当事者出席のもとで、原告が和解要件の主張・立証をおこないます。

口頭弁論期日は訴訟代理人による出席も認められますので、弁護士に依頼している場合には、弁護士に代わりに出席してもらうのが一般的です。しかし、弁護士に依頼せず被害者自身でB型肝炎訴訟を提起する場合、必ず本人が口頭弁論期日に出席しなければなりません。

特にお忙しい方の場合には、口頭弁論期日に毎回出席することは大きな負担となる可能性があります。

口頭弁論期日へ出席する負担が重い場合や、出席が億劫である場合には、弁護士への依頼を検討した方がよいでしょう。

証拠資料に抜け漏れが生じやすい

B型肝炎訴訟で給付金を獲得するためには、和解制度のなかで定められている和解要件を立証する必要があります。

受給資格ごとの和解要件は、前述の「B型肝炎訴訟の手引き」などにまとめられています。

しかし、必要な証拠を漏れなく収集して裁判所に提出するという作業自体が、訴訟に不慣れな方にとってはかなり大変です。また典型的な証拠を入手することが不可能な場合や、感染経路が複数疑われる場合などには、イレギュラーな証拠の提出を求められる可能性があります。

このような事情から、被害者本人だけでB型肝炎訴訟を提起する場合、和解要件を立証するに足る証拠に漏れが生じてしまうおそれがあります。

その場合、結果的に国から適正な金額の給付金を受け取れなくなる可能性があるので、十分に注意が必要です。

手続き上の不明点が生じた場合に相談できる人がいない

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起する場合、訴訟手続きのなかで生じた不安や懸念について、信頼できる相談相手がいないという点も大きなデメリットです。

特に訴訟手続きに不慣れな方の場合、膨大な量の準備作業や、裁判所による要求への対応に戸惑ってしまうことも多いでしょう。

B型肝炎訴訟を弁護士に依頼していれば、対応方針などについて随時アドバイスを受けられます。

これに対して、B型肝炎訴訟を被害者自身で提起している場合には、どのように対応するかを被害者が自分で考えなければなりません。

不慣れな訴訟への対応方針を考えること自体、被害者の方にとっては大きなストレスになり得るでしょう。

また、対応方針を誤った場合、適正な給付金を受け取れなくなってしまうおそれもあります。

B型肝炎訴訟の手続きを進めるなかで、戸惑いが生じた場合に適切なアドバイスが欲しい場合には、弁護士へのご依頼を検討してください。

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B型肝炎訴訟を自分で提起する際の流れ

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起する場合、あらかじめ訴訟の流れを把握しておいた方がよいでしょう。

以下では、B型肝炎訴訟の大まかな手続きの流れを解説します。

主張内容の検討

B型肝炎訴訟を提起する前段階として、まずは訴訟のなかでどのような主張を展開するか、事実関係を踏まえて検討する必要があります。

検討すべき主なポイントは、以下のとおりです。

事前の検討をしっかりおこなえば、その後の訴訟手続きをスムーズに進めることができます。

①どの受給資格に該当するか

B型肝炎給付金の受給資格には、一次感染者・二次感染者(母子感染・父子感染)・三次感染者・相続人があります。

被害者が訴訟での主張構成を組み立てる前提として、上記のうちどの受給資格に該当するかを把握しなければなりません。

②受給資格の認定を受けるために、どのような事実を立証すべきか

受給資格ごとに、B型肝炎訴訟で立証すべき事実がパターン化されています。

「B型肝炎訴訟の手引き」を参照して、どのような事実の立証が必要かを把握しておきましょう。

③②の事実を立証するために必要な証拠は何か

B型肝炎訴訟では、和解要件に当たる事実を、被害者が証拠によって立証しなければなりません。

立証に必要な証拠は、やはり「B型肝炎訴訟の手引きにまとめられているので、収集すべき証拠をリストアップしておきましょう。

④請求金額はいくらか

B型肝炎給付金の金額は、発症している病態と除斥期間が経過しているかどうかに応じて、以下の表に従い決定されます。

除斥期間が経過していない場合除斥期間が経過した場合
死亡・肝がん・肝硬変(重度)3600万円900万円
肝硬変(軽度)2500万円600万円(治療継続中の場合)300万円(それ以外の場合)
慢性B型肝炎1250万円300万円(治療継続中の場合)150万円(それ以外の場合)
無症候性キャリア600万円50万円

自身のケースがどの部分に該当するかを検討したうえで、実際の請求額を決定しましょう。

訴状の作成・証拠資料の収集

事前検討が済んだら、主張内容を「訴状」という書面にまとめます。

訴状には、被害者が国に対しておこなう請求の内容と、被害者の権利を基礎づける事実(=和解要件)を整理して記載します。

また、B型肝炎訴訟では、被害者が主張する事実を証拠によって立証しなければなりません。

訴状にも証拠資料を添付する必要があるため、対応する証拠を計画的に収集してください。

裁判所への訴訟提起

訴状と証拠資料の準備が整ったら、それらを裁判所に提出して訴訟を提起します。

B型肝炎訴訟の場合、提訴先は最寄りの地方裁判所となります。

訴状・証拠資料を提出すると、裁判所から補正の指示がなされる場合がありますので、適宜指示に従って対応してください。

口頭弁論期日

B型肝炎訴訟が提起されると、裁判所は「口頭弁論期日」を指定します。

口頭弁論は、裁判所の法廷において、当事者が互いに争う事実に関する主張・立証をおこなう手続きです。

被害者が自分でB型肝炎訴訟を提起する場合、口頭弁論期日に毎回出席する必要があります。

口頭弁論期日では、被害者は訴状や事前に提出した準備書面を基に、和解要件の主張・立証をおこないます。

その際事実関係や審理の経過に応じて、裁判所から追加での主張や証拠提出の要請がなされることがありますので、臨機応変な対応が求められます。

国との和解の成立

和解要件の立証に成功すると、国との間で和解を成立させることができます。

B型肝炎訴訟での和解は「裁判上の和解」と呼ばれ、その内容が裁判所書記官の作成する「和解調書」に記載されます。

和解調書の記載は、被害者・国の当事者双方を拘束します。

したがって、裁判上の和解が成立すると、被害者の国からB型肝炎給付金を受給する権利が確定したことになります。

社会保険診療報酬支払基金への支払い請求

裁判上の和解が成立した後、社会保険診療報酬支払基金に請求をおこなうと、B型肝炎給付金の支払いが受けられます。

参考:特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等支給関係業務|社会保険診療報酬支払基金

請求方法の詳細については、上記のホームページに記載されている問い合わせ窓口へ連絡して、アドバイスを求めるとよいでしょう。

B型肝炎訴訟を自分で提起する際の留意事項

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起するときは、弁護士に依頼する場合に比べて、被害者の準備作業など負担がかなり大きくなります。

ご自身だけで対応することが困難な状況に出くわす可能性もありますので、その際は適宜下記の方法により、行政や専門家のアドバイスを求めながら乗り切ってください。

無料法律相談を利用して、弁護士の話も聞いておくとよい

また、B型肝炎訴訟については、多くの弁護士が無料法律相談を実施しています。

B型肝炎訴訟をご自身で提起しようと考えている方にも、対応方針などについて、状況に合わせたアドバイスをしてくれるでしょう。

実際に依頼をするかどうかにかかわらず、B型肝炎訴訟を提起する前に、一度弁護士の話を聞いておくことは有益です。

B型肝炎訴訟の提起を考えている方は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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厚生労働省の電話相談窓口でアドバイスを求めるのも有効

厚生労働省では、集団予防接種などによるB型肝炎ウイルスへの感染被害を受けた方に向けて、電話相談窓口を設けています。

厚生労働省の電話相談窓口では、B型肝炎訴訟の提起の方法や提出すべき資料などについて、随時アドバイスを受けることができます。

以下のページの末尾に、厚生労働省の電話相談窓口の電話番号が記載されていますので、必要に応じてアドバイスを求めるとよいでしょう。

参考:B型肝炎訴訟について(救済対象の方に給付金をお支払いします)|厚生労働省

さいごに

B型肝炎訴訟を被害者自身で提起する際には、裁判所に提出する訴状・準備書面の作成や証拠資料の収集をすべて自分でおこない、さらに訴訟期日にも毎回自ら出席しなければなりません。

そのため、弁護士に依頼する場合よりも、かなり被害者の負担が大きくなることを覚悟する必要があります。

B型肝炎訴訟の準備を被害者が自分でおこなう場合、厚生労働省が公表している資料を参照しながら準備を進めるとよいでしょう。

準備を進めるなかで判断に迷う部分があれば、厚生労働省の窓口に問い合わせたり、弁護士の無料法律相談を利用したりすることが解決に繋がります。特に弁護士の無料法律相談は、実際に依頼するかどうかにかかわらず、一度利用すると対応方針が見えやすくなるのでおすすめです。

B型肝炎訴訟の提起をご検討中の方は、一度弁護士の話を聞いてみてください。

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